キミが犯罪者にならないために

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刑法の解釈になぜ体系が必要なのですか

◆Episode 03◆

キミは、自転車で走行中に脇見をしたために自転車の前輪を、歩いていた老人に衝突させてしまった。その老人は、衝突の衝撃でよろけて横転し、右脚を骨折してしまった。

この事例で、キミは、道路交通取締法規における行政法規上の責任、民事上の損害賠償責任、刑事上の過失責任などの法律上の責任を負うことを覚悟しなければなりません。

ここで特に問題にしたいのは、刑法上の責任です。

キミが、不注意な自転車走行について有罪とされ、刑事制裁(刑罰)を科されるには、キミの行為が「犯罪」と認定され、犯罪者として刑事責任を負担すべきであるという判断が必要となります。

そうした犯罪・犯罪者の判断をする刑法解釈学は、通常、刑法総論と刑法各論とに分けられて論じられます。

もう1度、刑法総論と刑法各論を確認しておきましょう。

うらしまそう

うらしまそう

刑法総論と刑法各論とは

刑法解釈学は、刑法の解釈を通じてその規範的な意味内容を明らかにする学問です。

その刑法解釈学は、刑法典の規定形式(「第1編 総則」と「第2編 罪」)に対応して、通常、「刑法総論」と「刑法各論」に分けられます。

あつもりそう

あつもりそう

刑法総論とは

刑法総論は、すべての犯罪・犯罪者に共通する一般的な成立要件及び刑罰の一般原則を考察する学問領域です。

主な研究対象は刑法の「第1編 総則」です。

具体的には、刑法の基本原則、犯罪・犯罪者や刑罰の基礎理論、すべての犯罪・犯罪者に共通する一般的な法律要件(成立要件)とともに、刑罰の種類・内容・適用及び刑法の適用範囲などを明らかにするのです。

つまり、刑法総論は、犯罪・犯罪者の概念をいわば横断的に考察する学問分野といえます。

あつもりそう

あつもりそう

刑法各論とは

これに対し、刑法各論は、個々の犯罪・犯罪者に特有の各別の成立要件及び各犯罪間・犯罪者間の相互関係を考察する学問領域です。

主な研究対象は刑法の「第2編 罪」です。

具体的には、個々の犯罪・犯罪者に固有の成立要件・法律効果とともに、個々の犯罪・犯罪者の特徴や相互関係を意識しながら、個々の犯罪の成立範囲や個々の犯罪者の処罰の可否などを明らかにするのです。

つまり、刑法各論は、犯罪・犯罪者の概念をいわば縦断的に考察する分野といえます。

犯罪論体系はなぜ必要なの

刑法解釈学は、詰まるところ、犯罪と犯罪でないもの、犯罪者と犯罪者でないものを区別するための学問領域であり、一般に犯罪論と呼ばれます。

この犯罪論には、犯罪論体系と呼ばれる体系が存在しています。犯罪・犯罪者の判断は、その体系に従ってなされるのです。この犯罪論体系も、ドイツの刑法解釈学の影響を受け、それを輸入する形で展開されてきたのです。

刑法を初めて勉強する皆さんは、刑法解釈学、特に刑法総論には複雑な体系があって、理屈っぽいなあという感想を抱くに違いありません。私も、学生時代、「刑法総論って、何か理屈っぽくて、とっつきにくいなあ。」という印象を抱きましたから。

刑法解釈学に、なぜそのような体系論が存在するのでしょうか。なぜそのような体系論が必要なのでしょうか。

ニホンカモシカ

ニホンカモシカ

① 犯罪・犯罪者の認定を精確に行うために必要なのです。

まず第1に、犯罪・犯罪者を認定していくうえで必要だということです。

犯罪・犯罪者の認定は直観的・感情的ではなく、分析的・理性的になされるべきですが、それを実現するためには、体系論が必要なのです。というのは、犯罪・犯罪者の認定を、形式から実質へ、外部から内部へ、一般から個別へ、抽象から具体へ、客観から主観へと順序立てて分析的に認定していくことによって、慎重で、冷静で、精確な認定を実現していくことを意図しているからです。

つまり、体系論は、冷静な分析的・理性的な認定を実現し、公正な犯罪・犯罪者の認定をするために必要な概念道具なのです。

② 重要な基本原則を段階的に実現するために必要なのです。

また第2に、刑法の基本原則を実現していくうえで必要だということです。

刑法には、重要な基本原則がいくつかありますが、何を基本原則とするかについては,刑法学者の間でも議論が分かれますが、行為原則、罪刑法定原則、侵害原則及び責任原則を刑法の基本原則とすべきでしょう。

これらの基本原則を犯罪論体系の各段階に配置し、それらを確実に実現していくためにおいて体系が必要なのです。

つまり、犯罪論体系は、刑法の基本原則を適正に配置してそれらを実現するために必要な概念装置なのです。

□参考:関 哲夫『講義 刑法総論』(第2版・2018年)

     第06講 犯罪論体系(59〜67ページ)

     第07講 行為論(68〜75ページ)